恋のお試し期間



「昨日は楽しかった?」
「え。あ。はい、えへへ」

佐伯に言われて一瞬何のことかと思ったが慌てて取繕う。

あまりにショックで何もする気が起きなくて、

友人と飲みに行くと嘘をついて家に帰った昨日。

「そう。昨日さ、つい我慢ならなくて君に電話かけちゃったんだけど。
結構長い間話中だったよね。それも、友達…と、なんだよね?」
「そうだったんですか。すいません。…えっと。はい。へへ」

矢田と電話してた時だ。なんというタイミング。

また明日、と彼に言われても営業へ行くことは無かったし里真も近づくことはしなかった。
だから今日は矢田との遭遇はなく何事も無く平穏に会社を出てまっすぐに佐伯の店へ。

彼は何時ものように出迎えてくれたけれど。何となく取り調べのような質問攻めに。

嘘は苦手。

バレそうで怖くて冷や汗をかく。じっと里真を見つめている佐伯。

「あ。そんな顔しないで、お試しでもやっぱり里真が気になるんだ。気に触ったらごめんね」
「そんな事」
「君に会えなくて話も出来なくてさ。嫌な事ばかり考えてた」
「…慶吾さん」
「せっかく会いに来てくれたのにこんな話つまらないね。コーヒーお代わり持ってくる」

視線を逸らし立ち上がると厨房へと戻っていく佐伯。

悪い事をしたな、と思いながら

でも無理して会いにいってもきっと上の空でちゃんと話なんかできっこない。
不器用な自分にため息をしながら彼に聞くかどうかでまた別の悩みが出てきた。
矢田にはもう聞かない。聞けない。それでも気になるのなら、残るは佐伯に聞くこと。

「あの」
「ん?何?」
「あの。その。…慶吾さん」
「何だろう。その顔は何か欲しいものがあるとか?」
「そ、そうじゃなくて。その」
「うん。なに」

席に戻ってきた彼に里真は勇気を出して切り出してみる。
矢田にはポンポン聞けたのになんで佐伯だとこうも詰まるか。

「…昔、の事なんですけど」
「うん」
「……、…み、三波と付き合ってたって噂ありましたよね」
「え?誰が?」
「慶吾さん」
「へえ。俺なんだ。何でそんな噂流れたんだろうね?不思議だ」

馬鹿それじゃないそれはもう過去として置いとく話題でしょ。

否定されてちょっと嬉しかったけれど。


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