熱愛には程遠い、けど。

03 行かなきゃいけないのに

 宮下さんを訪ねてきているという客はロビーで一際目立っていた。体格が良く、上下柄物の洋服で合わせた派手な中年の女性だった。
「申し訳ございません。ただいま宮下は対応できる状態ではなくて……私が用件をうかがってもよろしいでしょか?」
「なんだ、宮下さん忙しいのかい? あなたは?」
「宮下の部下です」
 大柄の体格と声が大きく威圧感のある雰囲気。受付の女性がびびって私のところまでやってくるのが分かる。
 それに……女性の足元にある肩幅以上の大きなダンボール箱はなんなのだろう。いけないと思いつつも視線が下へといってしまう。
「部下、か。それじゃああなたにお願いしようかね。これ、宮下さんに渡しておいてもらえるかい? この間のお礼だって言って」
「承知しました……」
 この間のお礼とは? そう宮下さんに言えば伝わるのだろうか。とりあえずはこの女性の名前や連絡先を伺っておいた方がいいだろう。
「あの、」
「あぁ、コレかい? はっさくだよ。私の実家で作ってて毎年食べきれない量が届くんだよ。だからおすそ分け。よかったらあなたも食べて。美味しいから」
「ありがとうございます……」
「じゃあ、そういうことだから。よろしくね」
「……あの! ちょっと待ってください! お名前を伺ってもいいですか?」
 一方的に用件を済ませ立ち去ろうとする女性を呼び止める。
「名前? あぁ。言っても分かんないと思うよ」
「……はい?」
「十日くらい前に宮下さんに大変お世話になったおばちゃん、と言ってもらえれば分かるんじゃないかね? 結構朝早い時間だったんだけど、彼、ちゃんと会社に間に合った?」

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