熱愛には程遠い、けど。

08 伝えたい

「ごめんなさい……あの、大丈夫ですから」
 相手が気に留めてくれないといじけて、来てくれたら喜んで。まるで子供みたいな自分が急激に恥ずかしくなってきた。
「でも……」
「ほんとになにも! 少し、飲み過ぎちゃっただけで……」
「ほんとだ、顔が赤い」
「……え」
 顔が赤いことを指摘されてさらに顔が熱くなる。今顔が赤いのはお酒のせいだけじゃない。
 返す言葉が浮かばなくて沈黙する。どうしよう、何かしゃべらなくちゃ。でも、今隣にいる宮下さんのことを意識しすぎてしまって言葉が出てこない。
「古川さん」
「……はい」
「抜けちゃおうか、二人で」
「え?」
 ゆっくりと視線を合わせると、宮下さんはにっと口角を上げた。
「送るよ、駅まで」
「あ……」
 そういう、ことか。体調が悪い私を気遣ってくれる、宮下さんらしい行動。優しい、ほんとうに優しい。
 私が頷くと宮下さんは立ち上がり、私も少し遅れて立ち上がる。
「荷物ってバッグだけ? もってくるよ、待ってて」
「はい。あの、でも。その……ほんとにいいんですか?」
「大丈夫大丈夫。僕はあとから戻るから。……あー……でもなんだか今日は気分が乗らないな。僕も一緒に帰っちゃおうかな」
「そんなことして大丈夫ですか?」
「うん。なんかもう二次会の話してたし。抜け出して帰るなら今だ! 急ごう!」
「はい……」
 いつも通りの宮下さんの様子に心がほっこりして笑みがもれる。 
「じゃあ、少し待っててね」
 荷物を取りに行った宮下さんを待つ間、胸の高鳴りがずっと続いておさまらなかった。

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