Beautiful Life ?

07

 ティーポットから、アンティークのティーカップに紅茶が注がれる様子をじっと見つめる。カップを受け取ると絵里は「ごめんね」と呟いた。

「急に会えるかな、なんて言っちゃって」
「いいのいいの。たまには私だって主婦業をお休みしたいもの」
「ありがとう」

 美景は「砂糖は?」と言ってシュガポーットを差し出す。絵里は小さな角砂糖を一つカップに入れてスプーンでくるくるとかき混ぜる。
 休日に相談があると連絡を入れた絵里に応えるため、美景は夫に娘を連れて数時間だけ実家に帰ってもらい自宅に絵里を招いていた。

「相談って西野君のことでしょ」
「はは。正解」
「また、昔のように惹かれちゃった?」
「……うん、どうかな」
「もしかして……西野君のほうが絵里に?」

 絵里は答えにくそうに苦笑いを浮かべて首をかしげる。

「はっきり言われたわけじゃないんだけど……たぶん」
「すごいじゃない。……でも、迷ってるの?」
「迷ってると言うか……」
「私がわざわざ言うまでもなく分かっていると思うけど彼は素敵な人よ。昔と変わっていなければ、真面目で誠実で思いやりがあって……」
「うん、昔と変わってないわ」
「だったら……! 絵里さえよければお互いにいい歳だし真剣に考えてみても」
「真剣に考えるって……何を?」
「え?」

 定まらない視線をじっと下の方へ向ける絵里。

「恋は、ただ楽しみたい」
「どういうこと? 好きな人と一緒に過ごす時間は楽しいわ」
「そうじゃなくて……こう、悩みたくないし、真面目に将来を考えたり、結婚とか、そういうのを意識した付き合いじゃなくて気楽に刺激的でどきどきするような、今を、楽しめるような……」
「遊びたいってこと? 本気になりたくないってこと?」
「そういうわけじゃ……」

 結婚には絶望した。大事な人は作りたくないけど女に生まれたからには恋はしたい。自分でもつじつまの合わない欲求だと自覚しているが、離婚後の絵里はずっとそう意識してきた。

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