あなたのヒロインではないけれど





「すみません、呼び出したりしまして」

「いえ……」


たまに通ううちにすっかり馴染んだカフェで、久しぶりに氷上さんと二人でお会いすると緊張する。


3ヶ月前の花見で酔いつぶれた氷上さんをマンションまで連れていって、何の間違いか一緒に夜を過ごすことになったけれど。特に何も無かったし、氷上さん自身が何も言わないから憶えていないんだ……とホッとした。


お粥を作ったのは余分かなと思ったけど、もしかするとゆみ先輩が来てくれたのかと納得したのかも。


あの夜……気の毒なくらいにゆみ先輩の名前を呼んでいた氷上さん。あんな不安定で壊れそうな彼を見たのは初めてで、どうしていいかわからなかったけど。今はこうしてちゃんと仕事ができているなら……大丈夫……なんだよね?


(私が離れても大丈夫……氷上さんにはゆみ先輩がいるんだし)


そう納得した私がテーブルに落としていた視線を上げて氷上さんを見ると、彼は私をずっと眺めていたのかしっかりと視線が合って。慌てて顔を伏せた。


(き、気まずい……)


手元のアイスティーをストローで意味なくかき混ぜる。ガラスと氷のぶつかる涼しげな音が、二人の沈黙を少しだけ和らげた。


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