あなたのヒロインではないけれど






「どうやら落ち着いたようです。もう大丈夫ですよ」


「よかった……」


ずっと落ち着かない気分でいたけれど、獣医さんの笑顔にホッとして涙が出そうになった。


あの後、猫を轢いたタクシーが私たちを乗せて近くの動物病院までつれてきてくれた。


運転手さんは申し訳ないと言いながら治療費を払ってくれたし、もう少しついて居たかったようだけど。氷上さんが「後はお任せください」と言うから、恐縮しながらもお仕事に戻っていった。


猫ちゃんは骨折も出血もあったし、少し危なかったみたいだけど。どうやら容体は安定して、今は薬で眠っていると獣医さんは話してくださった。


「それで、猫ちゃんは飼い主が不明のようですが……ある程度治癒したら、どうされますか?」


動物病院だっていつまでも置いておく訳にはいかないから、当然出る話だった。一度関わったからには無責任に放り出すなんてできない。


でも……うちは一軒家だから、飼うに問題はないけれど。今単身赴任してるお父さんが猫嫌いな上に猫アレルギーなんだよね。お父さんは1ヶ月に一度土日にだけ帰って来るから、その時に居たら確実にアレルギー症状が出る。


かといって引き取り手のあてなんてないし……と口ごもっていると。


氷上さんが、当然のように申し出た。


「僕が、引き取ります。オーナーの許可を得れば問題ありませんから」


そして、彼は私に向かって申し訳なさそうに眉を下げた。


「ただ、一人だと世話しきれる自信がないから……結実さん。あなたにも協力をお願いできるかな?」

「え……」


氷上さんの思いもよらない頼みに、私は頭が真っ白になったけれど。最終的には首を縦に振るしかなかった。


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