恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】

再会

20**、冬。


北海道、札幌。


天気、晴れ。


気温、8度。


積雪、なし。


2日前の金曜日から、札幌市内はどこもかしこも異常なほど混雑している。


札幌ドーム周辺の道路は大型バスやタクシーで、連日の大渋滞。


飛行機も地下鉄も、全ての交通機関は臨時ダイヤで、飲食店も満席状態。


すごいことになっている。


昨日はさすがにトルテもスタッフ総動員で挑んだけれど、それはそれはもう、開店から閉店までまるで戦場だった。


今日は無理を言ってなんとか休みをもらったけど、今頃、緋衣ちゃんたちはてんてこ舞いかもと思うと、申し訳ない気持ちだ。


でも、今日ばかりは仕方ない。


「……と。そろそろかな」


時刻は午後12時50分。


あたしはテレビを消して、最近新しく機種変更したスマホと2枚のチケットを手に立ち上がった。


部屋から外に出ると、冷たい北風が頬に触れてピリピリした。


「うー、寒くなってきたなあ」


身を縮ませながら階段を下りて、待ち合わせ場所のSOUL NOTE に駆け込む。


「こんにちは、宏子さん」


店内はほろ苦い香りが漂っていた。


「来た来た。そろそろ下りて来るべなって思ってたんだ」


日曜日限定で朝8時から夕方18時まではカフェとしても営業している、SOUL NOTE 。


「待ってるあいだ、コーヒーでもどう?」


夜とは違う黒いパンツに白いシャツ姿の宏子さんが、カウンターの奥で豆を挽きながら微笑む。


「じゃあ、ブレンドで」


「オッケー、ブレンドね」


とある事情で札幌市内が混雑しているとはいえ、ここは大通りから一本外れた閑静な住宅街なので、とても静かだ。
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