蝉鳴く季節に…
ジュースを飲むふりをしながら、前髪越しに杉山くんを見た。



遠くを見つめている様な瞳。


まるで、青空の色さえも染み込んでしまいそうな程にキラキラした瞳。




綺麗だなぁ……。









「あ…」




途端、杉山くんは呟く。





「え、何?」

「蝉がいる」

「どこ?」

「ほら、すぐそこ。ポプラの枝に止まってる」






杉山くんが差す指を辿ると、確かに葉の影に隠れた枝の真ん中あたりに、蝉がしがみついて鳴いていた。



どうりで声が響くと思った。







「油蝉だ」


嬉しそうに笑顔を浮かべる杉山くん。






「蝉、好きなの?」

「好きっていうか、夏って感じがするからさ」

「うるさくない?」

「そんな事無いよ」





キャップを深く被り直しながら、杉山くんはまた笑う。










私は…視線が…止まった。













杉山くんは……髪が無いんだ…。







一瞬だけ見えたキャップの中……あるはずの髪が…無い。










見てはいけない気持ちが込み上げ、思わず視線をそらした。



病気のせい……?





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