蝉鳴く季節に…
再び、空に視線を移す。







高い高い、空。


伸ばした手さえも、吸い込まれてしまいそうなくらいに、高い空。





見上げる私の視界に、小さな小さな影が横切った。











「あ……」




蝉だ。










ジジッとかすれた声を上げながら、一匹の蝉が飛んでいた。








上下に身体を揺らしながら飛ぶその姿は、優雅とは程遠く、まだ羽の使い方を知らずに舞っている様にさえ見える。



まるで、大空に飲み込まれそうな程に頼りない姿…。









――蝉は、八年もの間土の中で過ごして、わずかひと夏の空の青さを仰ぐ為に、土から出て来るんだ――











私の脳裏で流れるモノクロ映像が、蝉の鳴き声と共に、鮮やかな色を取り戻していく。











――限りある命だからこそ、きっと眩しいんだろうな――









彼の声。

子守唄の様に優しかった声……。












蝉が鳴く季節になると、私はいつも思い出す。





静かに静かに、まるで透明な湧水がゆっくりと土を湿らせていく様に、ひたひたと記憶が溢れ出す。





思い出が、心を潤していく。




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