蝉鳴く季節に…
杉山くんは上半身を起こそうとした。



「いいよ、自分で取れるから」

「そう?悪いな…」





申し訳なさそうに笑い、杉山くんは再び身体をベッドへと埋める。







ベッドの脇にある、小さな冷蔵庫。

ドアを開いた。


ひんやりと冷えた空気が、私の顔を包み込む。




気持ちいいな……。







「なぁ、水谷」





オレンジジュースを取り出す私に、杉山くんは横になりながら声をかける。







「水谷だったら…例えば、例えばだよ?肺と目、どちらかを先に選ばなきゃならないとしたら……どちらを取る?」

「……杉山くん?」





語る杉山くん。

ベッドに身体を横たえている杉山くん。


その視線は、天井をじっと見つめている………。








何だろう。

どんな意味なんだろう。




杉山くんは、何を…どんな言葉を求めているんだろう……。










「水谷だったら、どっちを先に選ぶ?」








どうして選ばなきゃいけないの?

両方じゃダメなの?


先にって何なの?





「……………」







沈黙が、流れた。
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