ブラックバカラをあなたへ
婚約が決まってから、私たちは親の薦めで、月に数回は食事に行くようにした。




両家同士の時もあれば、二人で行くこともあった。




そのせいなのか、廻さんは少しずつ私と話すようになってくれた。




私はそれが少しだけ嬉しかった。




彼といると、心が安らぐような気がして、彼の隣は居心地がよかった。




亜火紀家の娘ではなく、私としていれるような気がした。




それは彼も同じだったのだろうか。




皇夜の人達や、私と二人でいる時だけは雰囲気が少しだけ和らいでた。




けれど、それでもやはり、私と彼の間にはまだ境界線があった。




お互いに踏み込むことを、踏み込まれることを恐れていた。




そんな曖昧な関係が続いたまま、私たちは二年生になった。




『今年も同じクラスですね。一年間よろしくお願いいたします』




『よろしく』




少し嬉しそう?




彼は口数は少ないけれど、私は彼の感情を少しずつ汲み取ることができるようになった。




いつか結婚して、夫婦になる頃には、彼の気持ちを理解出来るようになっているかしら。




いつからか、そんなことを考えるようになった。




ある日の放課後。




葉音さん達と帰宅しようと校舎の玄関までくると、




『あれ、廻くんじゃない?』




と、燈さんが桜の木がある校庭の方を指さした。




『女の子といるね〜珍しい〜』




春実さんがそう言うのでよく見てみると、確かにそこには廻さんと、知らない女の子が立っていた。




ズキッ




その光景を見て、何故か胸が痛んだような気がした。




お腹も痛くなってきたわ。




風邪かしら?




『告白かなあ?』




燈さんのその言葉に、余計胸が苦しくなった。




けれどその原因が私には分からなくて、頭に靄がかかったような感じだった。




『こら、燈!優奈がいるんだからそういうこと言わない!』




そう言って、春実さんが燈さんの頭を小突く。




彼女たちだけには、私と廻さんが婚約したことを報告していた。




『春実さん、お気遣いありがとうございます。けれど私は気にしていないので、大丈夫ですわ。さあ、帰りましょう』




そう言って、私は足早にその場を後にする。




そうよ、私は彼が誰といようと気にしていないわ。




私はただの婚約者なのだから。




そんなこと分かっているのに、どうして、こんなにも苦しいのかしら…
< 62 / 106 >

この作品をシェア

pagetop