スペル
リスベール「…ち…遅かったわね。アイン君、私から離れたらダメよ。」


リスベールはそう言うと、右手で腰から剣を抜き放ち、構えた。
アインはその後ろに左手で押し込まれるように隠れる。


ぐるるる…。」
グオォォ!」


唸り声を上げ、ウォルフたちが飛びかかってくる。リスベールは剣の腹で牙を受け止めつつ、右に左にいなしながら、左手に持った鞘で地面に六芒星を書いていく。


リスベール「六芒の加護の下、万物を守り抜く壁をココに。スキル、フィルム。」


リスベールが書き終わった六芒星に向けてつぶやくと、地面が輝き出し、人間三人は包めるであろう大きさのシャボン玉のような光の膜が出現した。


アイン「これは…?」


リスベール「アイン君、君はこの中にいなさい。膜の中にいるものを守ってくれるスキルよ。さて、いってくるわね。」


リスベールはそれだけ言うと、アインを膜の中へ押し込み、飛び出して行った。


リスベール「ハァ!たぁ!」


リスベールの振るう剣が次々とウォルフを切り裂き、倒していく。不思議な事に倒した魔物は死んで倒れると、いつの間にか消えていっていた。


リスベール「ふぅ…。なかなか多かったわね。フィルムももったみたい、良かったわ。」


リスベールは現れたウォルフのすべてを剣で倒してしまうと、剣を鞘に収め、こちらを向いて戻ってくる。その背後から凄まじく大きいウォルフがこちらに向かって突進をしようと地面を蹴っていた。


アイン「リスベールさん!まだいます!でかいのが!!」


リスベール「え?」


反応が数瞬遅れた。リスベールはでかいウォルフに突進を喰らい、吹き飛ばされ、木にぶつかって倒れる。倒れたリスベールに向かってさらに攻撃を加えようとウォルフが地面を足で蹴り始めた。


アイン「あ…あぁ…。リスベールさんが…。」


ウォルフが地面を蹴りあげ、リスベールに向かって駆け出す。アインは恐怖で動けず、ただそれを見ていた。


「……風を切る!スキル・疾風剣!」


どこからか声が響くと、凄まじい風が吹いた。風が収まると、リスベールに向かって駆けていはずのウォルフがいなくなっていた。


アイン「え…?ウォルフはどこ…。」
ドドーン…!

言い終わらないうちに、上からウォルフの死体が降ってきた。どこからか白い短髪の男も降りてきた。


「お前…!なんで動かなかった!?たまたま俺が間に合ったから良かったものの!お前を助けてくれたんだろ!?なんで助けないんだ!」


男は突然アインの胸ぐらを掴み、怒鳴った。アインは何も言えず、ただ、怯えていた。


アイン「いや…あの…おれは…。」


「ちっ。」


男は乱暴に手を離すと、リスベールの元へ行き肩に担いだ。そして、振り返った。


「お前はここで死ね。生きる価値はお前にはない。」


それだけ言い、膝を曲げて跳躍する。人間ではありえないと思える高さまで飛び上がる。


「風の力をまとい、飛翔せよ!スキル、風翔!」


と唱えた。すると、男の身体を風が包み、そのままどこかへ運んで行こうとする。アインは慌てて、その後ろ姿に向かって叫ぶ。


アイン「待って!俺を置いていかないで!俺は戦えないんだ!死んじゃうよ!」


「……ちっ…。」


ザクッと、音を立て、剣が地面に突き刺さり、鞘が少し遅れて落ちてくる。
男は怒り心頭といった顔をして、アインに向かって叫び返す。


「お前はどこまで甘えるつもりだ!!自分でなんとかしやがれ!その剣はくれてやる、あとはどうなろうが知るか!俺はリスベールみたいに甘くないんだ。」


アイン「な!?まっ…!」


男はそれだけ言うと、あとはもう振り返らずに行ってしまった。アインはひとり取り残され、呆然としていた。


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