甘いささやきは社長室で



「秘書課にいますので、なにかありましたらお呼びください。失礼します」



そして綺麗な姿勢で礼をすると、エナメルのパンプスがつやめく足元で、社長室をあとにした。



……その間、たった1分。

短い会話にも、ほどがある。



最近、秘書がそっけない。

もともとクールで、にこやかさとは無縁な彼女だ。

けれど、最近は輪をかけてそっけなく、目を合わせることもなく最低限の会話だけをして僕の前を去る。



……あそこまで冷たく拒絶されると、さすがの僕もからかえない。

原因は、わかってるけど。



「はぁ」と小さくため息をつくと、不意にスーツの胸ポケットからは『コケコッコー!』とスマートフォンの着信音が鳴った。



電話……誰だろう。

取り出し画面を見てみれば、そこには『着信:竜宮花音』の文字。一瞬指先はためらうものの、通話ボタンをタップして電話に出た。



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