甘いささやきは社長室で



「営業くんが頑張ってくれたおかげで今ではナチュラルチーズや牛乳、いろんなものを卸してくれる付き合いの深い取引先になれてるんだけど」

「営業は取引先によっては根気が必要ですもんね」

「うん。そういう時に一層思うんだよね。つくづく僕は、社員に支えられてるなって」



社員に、支えられている?

その言葉の意味を問うように彼を見つめた。



「僕だけじゃ出会えなかったもの。食材をつくる人がいて、つなぐ人がいて、調理をする人がいる。それを経てこうして美味しく食べられる、これ以上の贅沢はないと思うんだ」



その言葉に含まれているのは、先ほどの彼の言葉の意味。



『けどその当然は当然なようでそうじゃないから』



私たち社員にとって、仕事に励むのは当然。だけど、社長という立場の彼にとっては、社員の努力を『当然』と感じてしまってはいけないから。

あの言葉は、彼の誠意の詰まったひと言だったんだ。



「そんな人との繋がりを感じるから、僕はこの仕事が好きなんだ。親から貰った社長という立場ではあるけど、ね」



こうして初めて向き合い、こぼされた笑顔と言葉から知るのは、彼がこの歳で社長として会社を担えている理由。



実は真面目で、きちんと会社や社員のことを思っているからこそ、人がついてくるのだろうし、情報を持った人々が彼の元へと集まるのだと思う。

全ては、桐生社長の真っ直ぐな心があってこそのもの。



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