甘いささやきは社長室で



そしてそれから2時間ほどが経ち、11時を過ぎた頃。私はひとり会社ビルの入り口を歩いていた。

すぐ近くの郵便局へ、郵便物を出しにいってきた帰りだ。

そろそろ桐生社長も出勤するかな……。



「おっ、社長秘書サマお疲れ様〜」



すると突然、そうからかうように声をかけられた。

この声は……。と振り向けば、背後に立っていたのは案の定、ほのかだった。



午前中の営業から戻ったところなのだろうか。いつもより少し強めに巻いたミディアムヘアを揺らし笑うほのかは、唇をピンク色のグロスで光らせている。



「……やめてよ、その呼び方」

「だっていきなり部署異動って話が出たかと思えば、これまたいきなり社長秘書になるなんてさぁ。びっくりだよねぇ」



社長秘書になってから、私はほとんどを秘書室や社長室で過ごしているため、ほのかに会うのも久しぶりだ。

異動を祝うというよりは、からかいのネタにするような言い方をするほのかに、私はエレベーターの方へ向かい歩く。



「……あ、そういえばほのか。あの男に余計なこと言ったでしょ」

「余計なこと?あぁ!絵理がまだ処……むがっ」



その言葉をまたも大きな声で言おうとしたほのかの口を、ガシッと手で押さえてふさいだ。



「なんでそういうことを軽々しく言うのかなこの口は……!!」



怒りを込めその口を強くふさぐと、ほのかは息苦しそうに「んんんっ!んんんっんー!」と声をあげ私の手から逃れた。




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