『忍姫恋絵巻』


「あたしは……あの時…命よりも大事な誇りと心を失うところ
だったの……」


家光はあたしにギュッと抱き着く。


家光…。
手が震えてる…。


「辱しめられそうになって、その上命まで…。私は、改めて将軍になんて生まれなきゃ良かったって、思ったの!」


「家光様っ!!」


同い年の、同じ顔の女の子。


他人になんて思えなくて、同じなのに、あたし達は生まれも、背負う使命も違う。


あたしも家光を強く抱きしめた。



「恐かったの!!あたし……本当に…。でも、才氷がいてくれたから、私はここにいるんだよ!」


あたしにしがみつき家光は泣きつづけた。
その頭を優しく撫でて、髪をすいた。


この人を…守りたい。


まだ、主をもつ覚悟も出来てないはずなのに、その気持ちばかり大きくなってく。



「あたしは、主をもちません。今も、きっとこの先も…」


まだ、覚悟の無い中途半端なあたしで、いいのかな。


この、真っ直ぐに気持ちをぶつけてくれる人の傍にいて、本当にいいの?














< 45 / 272 >

この作品をシェア

pagetop