歪な塔の人

夜の優しい終わり方

「私は君を好きじゃないから、そういうことはしない。ちゃんと彼女としなよ」

「彼女いないし君に猛アタック中なんだけどね」

「そうだね、忘れてた」

「ひどいこと言うね。境本、君は」

どれくらいの好意を
俺に持ってくれてるんだろうね。

言えない、言わないことが
想いの分だけ増えてくる。

俺たちの想いは
ただ単純に『好き』に
できないから難しい。

「何?」

「何でもない。手首見せてよ」

「話の移り変わりが急だよ。」

言いつつも左腕を
こちらに差し出してくれる。
コートと中の袖ごと
捲って露出させた左手首に、
今日は包帯はない。

その代わり新しい傷が
出来ていて、瘡蓋が厚く塞いでいた。

「剥がしていい?」

「服汚れるからやだ。」

「今日の境本はやだばっかりだね」

「容認されるようなお願いを持ってこいよ」

口悪く謗るくせに
手は預けきっていてひこうとはしない。
彼女は必死に俺を
拒まないで付いてこようとするから。
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