籠姫奇譚

何も言い返せない。

こんな寂しそうな顔をさせてしまったのは、紛れもなく自分なのだ。

遙が自分を独占したいのと同じくらい、自分は遙に自分だけの物で居て欲しいのかもしれない。


(本当に寂しかったのは、私……?)


廓で、何度も感じた想い。

珠喜が居なくなって、誰からも相手にされない孤独から、自分を救いだしてくれたのは遙だったのに。


きっと一人で居るのが辛いから、不安だから瑪瑙に甘えたくなったのだ。


「遙さん。私はずっと貴方の傍にいます。だからもう、哀しまないで……」


手元に転がっていた鋏を拾う。


「蝶子!?なにを──」


それを自分の胸に向けると勢いよく突き立てた。


「これで……良いんです。私は、もう、遙さんを裏切らない。貴方だけのものになります。貴方の記憶に私が残るなら、それで……」


「蝶子──!」


痛みと共に、紅い着物に飛沫で模様が広がった。

だんだん体の感覚がなくなって、思考が鈍くなる。



あの廓という鳥籠の中で、自分は只もがくだけだった。

今だって、ずっともがき続けている。


だから、今、蝶になろう。
無限に羽ばたける、蝶に。


「遙……さ……」


蝶子が、唇を動かす。

遙は耳を近づけると、意味を理解した。


「あ……りが……とう……」


遙の瞳から、初めてあたたかい涙が零れる。

その瞳は、いつまでも蝶子を映していた。







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