籠姫奇譚
「──蝶子」
髪を撫でる優しい手。
でも、冷たくて、壊れそうな儚さを感じさせる。
「遙さ──」
外が暗いから、もう夕刻になるんだろう。
指ですく度に、さらさらと流れる長い髪。
「ちゃんと布団で寝なきゃ、風邪ひくよ」
「ごめんなさい。うたた寝なんて、するつもりじゃなかったのに……」
蝶子は顔を真っ赤にして下を向いた。
「疲れたんでしょう?今日は気にせずおやすみ」
遙は蝶子を布団に寝かし直すと、静かに襖を閉めた。
だんだんと、足音が遠くなる。
「遙さん……」
優しい人だ。
遊女だった自分を、こんなに大切に扱ってくれて。
彼の為に、自分には一体何ができるだろう。