籠姫奇譚




────彼女、珠喜さんが屋敷から姿を現さなくなってから、しばらくした時だった。


柏木邸が炎に包まれ、真っ赤に燃え上がる地獄の様な光景。

そして屋敷が炎上する様を、恍惚の表情で眺めていた彼女を見たのは。


珠喜さんは此方に気付くと、あの美しい笑顔を見せた。

「全部……綺麗になるわ」

彼女が狂っていたならば、この僕自身も狂っていたのだろう。


この時の彼女を、美しいと思ってしまったのだから。


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