チェロ弾きの上司。
チェロ弾きの上司かつ恋人との夏

8月に入った。
来月はもう演奏会本番。
早いなぁ。

「モッチーさん、隣いいですか?」

オケの練習前に席に座ってると、高野くんから声をかけられた。

「どうぞ?」

この前の定演の後に入ってきた、あたしよりひとつ年下の男の子。
経験者で、結構うまい。
今時の若い子らしく、しゅっとしたイケメンの部類。

「モッチーさんの隣、弾きやすいっていうから、一度ご一緒してみたかったんです」

はぁ。




「モッチーさん、実は地味にうまいですね」

練習終了後、高野くんが言ってくれた。

「左手、見せてもらっていいですか」

あたしが左手を出すと、高野くんが手首を握って、指先をなでた。

ぐぇっ。
悪いけどぞっとしたよ!

手を引こうとするけど、離してもらえない。

「すごい、指先カチカチですね。たくさん練習してるんだろうな」

そりゃどうも〜。
で、離してもらえるかな?
お姉さん、好きでもない人に手を握られるの、趣味じゃないの。

高野くんは、あたしを見た。

「また隣で弾かせてください」

イケメンくんがスマイルを浮かべてる。

おや、何だこれは。またもモテ期?

でもね。

もっとカッコイイ人に、愛情こめて見つめられるのに慣れちゃったから、そんなんじゃドキドキしないの。
ヴァイオリンも上手いけど、三神さんほどじゃないし。

「彼に怒られるから、離してもらえる?」

「え」

何よそれ。
彼氏いるんですか⁉︎みたいな反応。
地味だけど、いるのよ。悪い⁉︎
しかもこんな場面見たら、後でネチネチ嫌味言うような彼氏がね!


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