不器用ハートにドクターのメス

無意識のうちに、俺は福原を好いていた。

その上無意識のうちに、勝手な期待を抱いていたのだ……と。

誘いにのってくれたこと。一緒にいる時に顔を赤く染めていたこと。

涙を見せたこと。楽しかった、嬉しかったと、一生懸命告げてくれたことーー

それらを全部、気づかないうちに、自分に都合よく受け取っていたのだ。

誘いに付き合ったのは、ただ俺が目上の人間だから、逆らえなかっただけなのに。

楽しいや嬉しいの言葉も、社交辞令にすぎないものだったのに。

会っている最中に顔を赤くしていたのは、俺だからというわけじゃない。

ただ、人慣れしていないから。緊張していただけだったのに。俺はーー


本当に馬鹿だ。滑稽だ。


親指を額に押し付け、神崎は自分をなじり、そして、思った。

福原は人慣れはしていないけれど、でも、一人だけ。心を許せる人間がいたのだ。

先ほどの男にだけは、心を許せるのだ。

偶然にも目にしてしまった二人の様子は、紛れもなく恋人同士のものだった……と、神崎はくちびるをきつく結ぶ。

あんな笑顔を、自分は引き出せない。

福原だって、俺には見せてはくれないのだろう。

初めて恋を自覚し、自覚したとたんに失恋、なんて。

今までさんざん、中途半端なことをしていたツケだろうか。

初恋は実らない。そんな、世間の俗説が当てはまりすぎていて、神崎は思わず、少し笑った。

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