不器用ハートにドクターのメス

「そう前置きして、わざわざ前もって自分から断りにきたのか?」

「え……」


険のある声だった。

断る、の意味を真由美が理解できないうちに、神崎は次の言葉を継ぐ。


「んなことしなくても……べつにこっちだって、本気だったわけじゃない」


意味は理解できなくても、自分が歓迎されておらず、拒否されていることはわかった。

一緒に出かけたときの暖かさや優しさは、もうここにはなかった。

あの時の空気も、やわらかい視線も、一つも残っていなかった。

愕然とする真由美に、トドメの一言が降る。


「話は、それだけか?」

「……っ、」


出て行けと言わんばかりの態度に、真由美は萎縮し俯くと、勢いよく礼をして、宿直室を飛び出した。

誰もいない廊下に、ぱたん、と閉まる扉の音が響く。

振り返る。目の前の扉はまるで、神崎に作られてしまった心の壁のようで、真由美はただ、呆然と立ち尽くした。

あんな、切り離すような冷たい態度をとられたことは、初めてだった。


ーー真由美は知らない。

まさか金曜の夜、神崎に、兄といるところを目撃されていたなんて。

神崎がその場面を勘違いして受け取っていることも、たった今真由美を冷たくあしらった神崎が、扉の向こうでうなだれて、

……アホか俺は!嫉妬して冷たくするとか中学生じゃあるまいし……!!

と自分を嫌悪し、顔を歪めているなんてことも、もちろん知る由もない。

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