不器用ハートにドクターのメス
こんな短時間のうちに眠りに落ちてしまうなんて、よっぽど疲れていたのだろう。
掛物を持ってきて、ここでしばらく寝かせてあげられないだろうか。
一瞬、真由美はそんな母のような気持ちを抱いたが……いやいや、あげるってそんな上から目線な、とすぐさま自省する。
それにしばらくといっても、自分は予習に戻らなければいけないわけで。先生だって、こんなところでなく、早く家に帰った方が、ゆっくり体を休められるだろう。
起こさなければ、と、真由美は思う。
十数秒ためらい、眠っている神崎をガン見し続けたあと、真由美は勇気を振り絞って、自身の重いくちびるを開いた。
「あの……先生……?」
若干、声が震えた。無意識のうちに、ぐっと腰を引いた、受け身のポーズをとっていた。
しかし、真由美の構えとは裏腹に、神崎はぴくりとも動かなかった。
聞こえてくる規則正しい寝息が、神崎が未だ快適な夢の世界にいることを、物語っている。
「せ、先生……あの……終わったん、ですけど……」
ほんの少しだけボリュームを上げて、声をかけてみた。
だが、やはり神崎が起きる気配はない。
また十数秒固まったあと、かなり躊躇しながら、真由美は一歩、神崎に近づいた。
一歩、また一歩と少しずつ距離を詰め、しまいに神崎の前に立つ。
いったん、深呼吸をする。
アゴを引き、目の前で眠る神崎の様子を注意深く伺いながら、真由美はゆっくりと右手を伸ばした。