不器用ハートにドクターのメス

数日前、車で朝の送迎をしてもらった際、真由美は神崎から、出かけないかという類の誘いを受けた。

驚いて了承してしまったものの、冷静になってから、真由美はひどく混乱した。


……どうして先生は、わたしなんかを誘ってくれたんだろう。


神崎からの突然のデートの提案は、真由美にとっては、迷宮入りと言ってもいいほどの事件であり謎であった。

男性と行動を共にすることなんて一生ないかもしれないと思っていたところに、神崎のようなハイレベルメンから誘われるなんて、まさに青天の霹靂。棚からボタモチどころじゃない出来事だ。

それでもなんとかしぼり出して、真由美が考えついたのは、この間、自分が変な悩みを打ち明けてしまったものだから、気を遣って下さったのだろうか……ということだった。


『……友達に、なってやる』


神崎がくれた言葉を思い出すと、心臓のあたりが暖かくなるのを感じる。


……友達。その証明に、一緒に出かけようと言ってくれたのかな。


さすがに神崎のことを友達、などとは恐れ多くて思えないのだが、真由美はその言葉を、かなり嬉しく思っていた。

友達がいないわたしを憐れんで、友達になってくださるなんて。ボランティアでただでさえ貴重な休日の時間を割いてくださるなんて……先生は、どこまでお優しいんだろう。

真由美の中で、まるで聖人君子のような間違った神崎像が出来上がっていってしまっている感じは否めない。

否めないが、とにもかくにも、真由美にとっては、今日が人生初デートだ。

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