いつか孵る場所
「ごめん」

駅前に迎えに来てくれた透は開口一番、謝った。

真由は首を横に振る。

「一緒に連れて帰れば良かった」

透はため息をつく。

「…ごめんなさい」

真由はそれを言うのが精一杯で俯いていた。

「少しの気分転換にもならなかったね。ごめん」

車内に重い沈黙が流れる。

「…さんが」

「えっ?」

真由は目に涙を浮かべて透の横顔を見た。

「淡路さんが来たの、あの後」

一瞬、苦い表情を浮かべたように見えたが

「…そう。ハル、元気だった?」

いつもの穏やかな透だった。

「…うん」

まだ結婚してない、でも微妙な人はいるとは言えなかった。

「電話番号、聞こうとしたんだけど…」

真由が必死に言おうとすると、透は車を人気のない公園横に停めた。

「…真由ちゃん」

透は少し呆れて

「真由ちゃんがハルと仲良くなりたくてそうするならいいけど…。僕の為ならしなくていいよ」

真由は目を大きく開いた。

「…ハル、結婚していたら迷惑だし」

「してないって言ってた」

「してなくてもいい人がいてたら迷惑だよ。それに僕は僕で色々あるから」

「…彼女、いたっけ?」

真由は鼻をズルズル啜って聞いた。

「いないよ」

透は当たり前のように言って真由を見つめる。

「僕みたいな人と付き合ったり結婚したりなんかしたらその人は不幸になるだけだし。家に常にいない夫。出産にも付き添えない、子育ても一緒に出来ない…。可哀想だよね」

口元だけ笑ってみせた透。

真由の胸はまた痛くなった。

「…本当にごめん」

真由が頭を下げると

「そんなに謝らないでよ。僕の事は別にいいから」

「更に私…泣いたりして困らせてごめん」

「…色々言われたからでしょ?」

透はそれは仕方がない、と付け加えた。

「でも流せば良かった…」

また真由の手が震えていた。

透はその手を握りしめると

「君がそう言うのは余程だよ。…さっき、話してた友達が僕にメッセージを入れてくれていた。結構揉めてたって。僕の存在が原因の1つだとも言われた。それは本当に謝るよ」

透は手に力を込めて続ける。

「真由ちゃんは良い意味でいつまでも変わらない。これからも変わって欲しくないって僕は思っている。君がそこにいるだけで、精神的に助けて貰っている人は沢山いると思う。だから辛いときとか悲しいときとか…どうしようもない時は吐いて楽になるなら僕で良ければいつでも聞くから」

透の手に真由の涙が溢れ落ちた。

街灯の光に反射してキラキラと弾けた。
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