いつか孵る場所
透の入浴中、ハルは何だか申し訳ない気持ちになっていた。

時計を見ると午前1時。
透の睡眠時間を奪っている。

ハルももうあと数時間すれば出社だ。
自分は良いとして透はそういう訳にはいかない。
もう、丸2日寝ていない。

それと共に自分が想像している以上に透は過酷な状態で仕事している事も、よくわかった。

− 重荷になったら嫌だなあ… −

大きくため息をついた。



「待たせてごめんね」

数分後、透が出てきた。

「ううん」

ハルは首をブンブン横に振る。
その姿を見て、透は微笑む。

「透、早く寝ないと…」

ハルの心配そうな顔を見て透は

「ハルが目の前にいるのに寝られると思う?」

そう言ってソファーに座っているハルの隣に座った。
一人だと余裕のソファーも二人座れば定員。

二人の肩が触れる。

「今日は本当に辛かったけど、ハルの声を聞いたら気分が良くなった。それでさ、ふと空を見上げたら綺麗な月で…そのまま視線を横に移したら桜の木があってね。僕、高校前の桜並木を思い出しちゃったよ」

「ええ!私も!!今日ここに来るまでに桜を見て思ったの!!確か透と桜を見ながら下校した事を」

「へえ、奇遇だねえ。僕、本当に疲れている時は周りを見る余裕なんて全くなくてさ。いつも気が付けば家に着いてる感じなのに今日は違った」

透は手を1回叩いて

「ハル、今からドライブに行こう!」

「ええっ!!」

ハルは目を丸くする。
思わず時計を見る。
午前1時17分を過ぎたところ。

「あ、でもハル、今日から仕事だよね」

「透が行きたかったらいいけど。私、ここ数日はほぼ家で休養していたから」

「じゃあ、行こう」

透はにやりと笑ってハルの手を取った。
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