大人の恋は波乱だらけ!?
動き出す【大人の恋愛】
「……」

「桜木?……どうした!?顔が真っ青だぞ!!」


オフィスに大きな声が響き渡る。
その声は優しくて温かい、私の大好きな高梨部長の声だ。
でもあまりにも大きいせいか皆の視線が痛いくらいに突き刺さっている。
そんな視線を消す為に私は高梨部長に笑顔を浮かべる。


「何でもないです、大丈夫ですから」


無理やり浮かべた笑顔、口元がピクピクとなっているのが自分でも分かる。
そんなモノが高梨部長に通じる訳なく……。


「下手な作り笑顔しないの。っで?どうしたんだ?」


優しい笑顔と共に大きな掌がそっと私の頭にのっかる。
その手つきに涙が出そうになるがグッと堪えて笑顔を作り続ける。


「本当に何でも……」

「桜木」

「え……?」

「無理して笑わなくていいから。
お前が辛そうに笑うと俺まで辛くなるんだ」

「高梨部長……」


眉尻を下げながら哀しそうな顔をする高梨部長を見ると自然と口が動いてしまう。


「ただ【大人の恋愛】のシナリオが上手くいってないだけです」


素直に白状すれば高梨部長は『ああ』と困った様な顔をする。
それもそのはず、高梨部長が色々と動いてくれたみたいだが社長は聞く耳を持たず来年の10月に【大人の恋愛】ゲームが発売されると世間に公表してしまったのだから。
だから私が早くシナリオを描かなければ話にならないのだ。

もし期限までにゲームが完成及び発売が出来なければ会社の信頼にも関わってくる。
そのせいか未だシナリオが完成していない事を知っている同じ部署の人たちはソワソワとしている。

プレッシャーに弱い私はその事もあって見ごとに撃沈していた。
でもそれだけじゃないんだよね。

『ハァッ』とタメ息を吐きながらデスクに置いてある紙に目を向ける。
真っ白で綺麗な紙はシナリオが少しも進んでいない事を表していた。
< 144 / 514 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop