雪国ラプソディー
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「ねえ浅見さん、本社のこと教えてよ」


大分お酒も進んできた頃、村山さんが急に話題を振ってきた。本社のことを聞かれても、正直困ってしまう。


「私に、教えられることなんて何も無いですよ」


あはは、と笑ってビールを飲んだ。
美味しい料理と暖かい店内に、うっかりここが極寒の雪国だということを忘れていた。
そして、私が勤める本社のことも。

少し酔いが醒めた気がした。



「浅見さんは、普段どんな仕事をしてるの?秘書課って、謎だらけだよ」

「うーん。特に変わったことはしてませんよ。スケジュール調整とか、各種チケットの手配とか……」


私は先輩社員の補助が主な仕事だから、うまく答えられない。先輩が手いっぱいのときは代わりに受け持つ仕事もあるけれど、一時的なものだ。普段は外部からの問い合わせ対応や雑務が大半を占める。


「やっぱりさ、綺麗な人多い?」


村山さんは、秘書課という名称に妄想を抱いているようだ。矢継ぎ早な質問に、苦笑する。


「そんな質問したら、浅見さん答えづらいよ」

「あはは」


中村所長が助け舟を出してくれて、助かった。


「浅見さんみたいなカワイイ子がいっぱいいるなら、毎日通いたいな」

「何言ってるんですか」


村山さんの性格にも慣れ始めていた私は、軽く突っ込めるまでになっていた。


「……私は手違いで配属されたようなものですので」

「手違い?」


それまで黙って聞いていた小林さんが反応した。何でそこに反応するんだろう、と焦りながら答える。


「入社したときに秘書課で欠員があって。本当は中途の経験者とか資格を持っている人とか、即戦力が欲しかったらしいんですけど」


仕方なかったみたいなんです、と言ったら何だか笑えてきた。
先輩の補助をしているうちに、この春には4年目になってしまう。大きな不満は無いけれど、何も成し遂げていないこのままでいいのかと自問する毎日。


「私、全然向いていないみたいで……」


転職するなら今のうちですよね、と小さく笑った。

一瞬目が合った小林さんは、怖いくらい真顔だったけれど、次の話題へ移る頃には和やかな雰囲気で相づちを打っていた。

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