雪国ラプソディー

「小林さん、こっちにいっぱいいます!」


今の私は〝童心に返る〟という表現がぴったりかもしれない。初めて見た白鳥の姿に興奮が収まらず、川の縁まで近付いて行ってしゃがんだ。

鴨や鷺はいつも通勤途中の川で見かけているので、鳥が決して珍しい訳ではないけれど、この景色は新鮮で圧巻だ。

雪と見間違えるほど真っ白な体に長い首。くちばしが黒と黄色でよく目立つ。想像よりも体がずっと大きくて、群でいると鳴き声も迫力があるものだった。
川縁にいる私の近くにも物怖じせず寄ってくる。


「落ちるなよ」


苦笑いをしながら、小林さんが隣に来た。


「大丈夫ですよ! あ、あの色が違う鳥はなんですか?」


白鳥に紛れて、灰色の鳥がちらほら見える。


「あれも白鳥だよ。子どものうちは灰色なんだ」

「ええっ! 本当ですか?!」

「浅見、それ演技じゃないよな?」


そんなことを真顔で言われても。
冗談なのかどうか判断できないまま黙っていると、視線を外された。


「……育った環境が違いすぎるからな」


小林さんが遠くを見ながらぽつりと呟いた言葉が、なぜか胸を締め付けるように刺さった。

空はとてもいい天気で。寒いことには変わりはないけれど、陽射しが明るくて眩しい。川の向こうに遠く見えるのは、今朝ホテルから見えた大きな山々。

同じ空気を吸って、同じ景色を見ているはずなのに、今私たちはすごく遠いところにいるみたいだ。

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