雪国ラプソディー
ーーーーー

発車ベルが鳴り、新幹線がゆっくり滑るように動き出す。
無事に乗れた私は、ホッとしながらシートに深く腰かけて、首を伸ばした。


ーーあっという間だったなあ。


雪国は、温かい。
営業所のみんなはとても優しくて、とても刺激になった。こんな私にも、真摯に向き合ってくれたことが、本当に嬉しかった。

あの豊かで、時に脅威ともなる自然に向き合い、共に生活していく。寄り添って、助け合って。

私の悩みは、なんて小さなことだったんだろう。
今までの私の小さな世界が、バラバラと音を立てて崩れていく。


浮かぶのは、小林さんの強くて優しい目。
もう二度と、会えないかもしれないのに。


「はあ……」


何だか、頭がぼーっとする。
ちょっとだけ休もうかな、とコートの襟元へ手を伸ばして、はたと気付いた。


「ああっ!」


周りの人が私の方を振り向いたので、慌てて口を手で覆って俯いた。


ーーどうしよう。
私、小林さんにマフラー返すのを忘れてた!


「会社に戻ったら、電話しないと……」


首もとの温もりに、まだ、小林さんが近くにいるような気がしてめまいがする。


もしかしたら私、小林さんのこと。


「好きになっちゃったかも……」


小さな呟きは、トンネルに入る轟音にかき消された。
< 57 / 124 >

この作品をシェア

pagetop