秘密の契約
花を活けている日菜は先ほどまでのおどおどした感じがなくなった。



可愛らしい表情から大人っぽく見える。



日菜は水を得た魚のように生き生きと花を活けていた。



千波の座っている場所からその姿は見えたがだんだんと人だかりが出来て日菜の姿が隠れてしまった。



どんどん活けられていく花をお客が見物し始めていた。



千波はフッと笑った。



日菜が活ける姿と、活けられた花は見事だからな。



「日菜ちゃん、花を活けられるのか?」



耕平が心配になって聞く。



「ああ、もちろん 日菜は華道の師範代だからね」



「うわっ し、師範?」



「そう、安心していていいよ」



そう言って温くなったビールを口にした。



「千波さんの大事な日菜ちゃんには隠れた才能があるのね?」



十和子がにっこり笑って言った。



あの雰囲気から見て良い所のお嬢さんに見える。



「まあ……隠れた才能ではないけれど 彼女なりに努力はしていたから」



小さい頃はお稽古が嫌でサボって家に来た事もあったな。



小さい頃の日菜を思い出してクスッと笑った。



そんな姿を見せられて十和子は面白くなかった。





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