フラワー・バレンタイン
「あ~、そうだ。…水野サンは誰かに渡すんですかぁ?今、確かフリーでしたよね」

「そういえば今日はいつもより、お手入れ長いですよね~」

きた。

彼女らとは少し離れ、いつもよりは入念に化粧を直していた私にも、ついに探りが入ったようだ。

努めて冷静に私は答えた。

「…年を取るとね、隠さないといけない所が増えるのよ。
シミだのシワだのクマだのと」 
 
「え~、まだまだそんなふうに見えませんよぉ」

おざなりのお世辞の後に、

「やっぱり……アヤシイなぁ?
あのバッグの膨らみはもしかして…」

うっ。
こういう時だけ察しがいいんだから。

あわわと慌てる心を抑え、更に声のトーンを落とす。

「…さあ、バカな事言ってないで。午後は監査が入るのよ。浮かれてミス対応でもしたら、課長の怒りを被るわ。
…ヒナちゃんサヤちゃんは、大丈夫?」

二人は顔を見合わせて
そそくさ慌てて出ていった。
 
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