恋の後味はとびきり甘く
「あ、や。えっと、大学時代からの男友達にあげようかなって……」
「友達?」
「はい……。今のところ、まだ友達なんです。でも、私が仕事を辞めたこととかすごく心配してくれて……心配かけたお詫びって感じで渡せば受け取ってもらえるかなって……」

 恥ずかしそうに頬を染める彼女の顔がとても乙女に見えて愛らしい。

 微笑ましく思いながら箱を包装し始めたとき、モン・トレゾーのドアが開いた。

「いらっしゃいませ」

 美佳ちゃんが彼女にとって初めてのお客様を迎えるべく、緊張した声で言った。入ってきたスーツ姿の男性を見て、私は頬を緩めた。常連客ではないが、よく知っている相手だ。

「古川さん、こんにちは、いらっしゃいませ」
「こんにちは、小谷さん」

 三十五歳の古川さんがにっこり微笑むのを見て、美佳ちゃんがもの問いたげに私を見た。

「あ、この方は古川芳人(よしと)さん。知り合いのビジネスコンサルタント事務所の所長の甥御さんです」
「鈴音さんとは、一年前に伯母からモン・トレゾーの担当を引き継いで以来の付き合いだよ」
「古川さん、こちら短期アルバイトの柿本美佳さん」

 私がふたりを紹介し、美佳ちゃんが古川さんに向かってお辞儀をする。

「よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく」
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