かわいい君まであと少し
【4】甘くなる日常
 朝の三分は貴重だと思う。それは学生の頃から思っていた。でも、今日になってその考えが変わった。朝の一分はとても貴重だ。
「ちょっと望月課長、なんで志穂ちゃんがまだパジャマなんですか?」
「着替えさせようとしても逃げるんだよ」
 私が七時に望月課長の部屋にお邪魔すると、ワイシャツにスラックスという仕事モードの姿の望月課長が、志穂ちゃんの服を持って「志穂、着替えよう」と必死に頼み込んでいたのだ。
「志穂、どうした? なんで着替えたくないのかな?」
 時間のない朝、望月課長は困り顔だ。
 とりあえず志穂ちゃんのことは任せて、三人分の朝ご飯の用意を始めた。
 昨日の夜のうちに下ごしらえは済ませているから、あとは少し手を加えて味を調えればいい。
 フライパンの火を弱め、二人の様子を見ると、まだ着替えていないようだ。
 志穂ちゃんは頑なに着たくないと首を横に振っている。
「望月課長、今持っている服じゃなくて、違う服を着せてみてください」
「え、わかった」
 望月課長はそんなことしてもしょうがないだろう、という感じで別の服を持ってきた。
 最初に持っていた服は白いカットソーと黄色いカーディガンだった。そして代わりに持ってきたのは赤いトレーナーとピンクのTシャツだ。
「志穂、着替えよう」
 望月課長がパジャマの裾に手をかけると、両腕を万歳のように上げてくれた。そのまま大人しくTシャツとトレーナーを着てくれた。

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