僕達の犯した罪と秘密
第1章 運命のクラス分け
僕らの学校は比較的、人数が多かったため1,2年を除いては1年ごとにクラス替えがあった。だから、この日も誰と一緒になるかワクワクしていた。でも、少し不安があった。6年だけは成績ごとにわけられることになっていたからだ。1組が一番上で4組まであった。ただし、4組が一番下ではない。一番下は3組だった。4組―通称 崩壊学級は、名前の通りに崩壊していた。その崩壊の原因となるのはクラスのメンバーだった。学力的にいえば良いのだが、対人関係の問題や生活面での問題があり見放された人だったり、運が悪くて飛ばされた人の集まりである。学年の中でも4組は力を持っているクラスだった。だからこそ、4組のクラス内でのいわゆる、スクールカーストは激しかった。4組に行きたいという馬鹿なやつもいれば行きたくないと最もなやつもいた。4組は崩壊学級だから―

「おっはよー!」
元気のいい声が聞こえてきた。
声の主は柊木 翼だった。彼女は男女共に友人が多い、よく言う人気者。僕とは縁がないにも関わらず話しかけてくれたりした。そんな優しさを素直に受け止めきれない僕は怖さに変えていた。
「おはよーつばさっち!」
青木 美雨を初めに立花 美里、佐藤 結衣、中村 莉夢の4人が答えた。
「おはよ〜」
「おはよ、元気だね〜」
「つばさっちおはよー」
女子の会話に男子も加わった。
「朝からうるせーな」
一ノ宮 純也が言う。それに乗って他の4人も言った。
「そーだそーだ」
「うるせーぞ」
「女子って騒ぐの好きだよな〜」
「俺ら言えないけどなー」
斉藤 修司、中井 雅、藤塚 大翔、穴井 悠哉の順で言い始める。
女子と男子、10人の笑い声が絶え間なく聞こえてくる。
その煩さに僕は席を立ってトイレへ歩いていった。
それから少しして教室に戻った僕はもうすぐクラス発表の時間だと気づいた。暇だから、みんなよりも早めにクラスの紙が貼られる踊り場に行った。
着いて二分ぐらいすると先生がクラスの紙を持ってくるが見えた。貼られて、確認しようと見ると僕の名前はなかなか見つからなかった。なぜなら、あの崩壊学級―4組だったからだ。少し唖然としているといつの間にか後ろに人だかりが出来ていた。その事に驚いて反射的に教室へ向かっていた。
教室に付いた時、少し息切れしていた。焦りですぐには気づかなかったが、机にうつ伏せている1人の少女がいた。少女は確かー。そうだ、十和田 美琴だ。僕は普段、声を掛けるタイプではないが美琴の複雑な顔を見て声を掛けていた。
「……大丈夫…?」
見た目からして大丈夫ではなさそうだったが大丈夫?としかかける言葉が見つからなかった。全く気がきかない。
「……」
美琴は冷たい目だった。まるで―まるで4組になったかのような―
「あっ…もしかして…?」
僕はつい、聞いてしまっていた。冷静になれば馬鹿ような行動だとわかるはずだったのに。と、言い訳も混ざった後悔を心の中でこぼした。
「…そうだよ…4組だよ」
美琴は冷たくゆっくりと言った。
シーンとした教室にその声が響いて聞こえた。この時、誰もいなくてよかったと心から思った。
「そっか…僕もだよ」
僕は周りを見て誰もいないことを確認して言った。少し卑怯だったなと思う。
「…え、あ、そう…」
少し驚いた表情だった。台詞も戸惑いがあった。
ほんの少しの沈黙のあと廊下から声が聞こえてきた。きっと翼たちだろう。そして、僕は何も無かったように席に戻った。
翼たちが戻ってきて教室は一気に煩くなった。まるで、平和だった所に爆弾が落とされたように。いや、逆かも知れない。爆弾の落ちたところに平和が戻ったようなのかも知れない。
「何組ー??」
楽しそうに聞く翼の声。
「1〜」
「1ー!」
「やべー、3だったー」
「俺も俺も」
「俺、2」
「俺はー1〜」
「私は2!」
「…」
「あー俺、1だわw」
楽しそうに答える中で1人、答えない少女がいた。
それに鋭く反応した翼は少女に問いかける。
「莉夢は何組なのー??」
無意識なのかわざとなのか、少し刺のあるように聞こえた。
「……」
翼の問いかけにさえも中村 莉夢―莉夢は答えなかった。その様子に疑問を持った藤塚 大翔―大翔が優しく訪ねた。
「莉夢?どうした??大丈夫か?」
その問いかけにさえも莉夢は答えなかった。いや、答えられなかった。なぜなら4組だからだ。さっき4組のところに中村 莉夢の名前を僕は見つけていた。
「ねぇ莉夢、どうしたの?」
翼もそれに続く。翼の発言が終わるとともに青木 美雨―美雨が口を開いた。
「莉夢、答えてよ」
美雨の声には苛立ちも含まれていた。
「美雨さん、落ち着きなさいってw」
大翔が少し笑いながらなだめるように言った。それにまたイラついたのがわかった。
「莉夢ちゃん、もしかして…」
立花 美里―美里が気まづそうに言った。
「えっ」
「まじかよ」
「うわ」
「最悪じゃん」
「関わりたくないね…」
「どんまいじゃん」
「どっちの理由だろ」
「運の悪さじゃない?」
「対人関係かもよ」
「たしかにww」
「どちらにしよ、関わりたくない」
「あんなトップクラスの人がねー」
「ざまぁみろ」
「まじそれな」
「ないわー」
「何何??」
「莉夢さん、4組だってー」
「えー!」
「声デカイってw」
「まじかー」
「まじまじ」
「やばくね」
「やばいねーw」
「んねー」
「ほんとほんと〜」
「自業自得じゃん」
「それ言うか」
「もちろん」
「4組って」
「崩壊学級…w」
「今年はみんなで潰してやろーぜ」
「賛成、賛成」
みんながみんな好き勝手に喋る中、僕は複雑な気持だった。
そんなざわざわした状況を打ち破ったのは大翔と翼と美里だった。
「お前ら好き勝手言うのやめろよ」
大翔の声で一気に教室は静まり返った。
「そうだよ。4組とは分からないじゃん。莉夢のこと知らないくせに」
翼は少し涙目になって言った。
「翼の言う通り。それに4組でも先生なりの理由だし私達じゃ分かんないかもしれないじゃん。」
美里は堂々と言った。美里と莉夢の仲が良かったのもあるだろう。
3人の言葉を聞いて誰1人何も言わなかった。
「ごめんな莉夢。大丈夫か?」
大翔は優しく言った。莉夢は相変わらず俯いたままだが、泣き目になっているのがわかった。
「莉夢…何組なの?」
翼はそっと温度のなさそうな声で聞いた。
「莉夢、教えて」
それに続いて美里も言った。
「……4…組…」
莉夢がぼそりと呟いた。聞き取れなかったのか、悪戯なのか美雨が聞き直した。
「え?なんて??」
「…4……」
莉夢にはもう元気なんか無かった。
「聞こえないって、はっきりいって。」
美雨の問い詰めに苦しそうに声を振り絞った。
「…4組…です…」
ほんの数分の出来事にも関わらず、美雨と莉夢の間に上下関係が出来ていた。
「聞いたー?4組だってw」
美雨はさっきまで仲間だった獲物に食いついた。
「…ほんとに?」
翼は気まずそうに聞く。その問いかけに莉夢は小さく頷いた。
「だ、大丈夫だって!莉夢には俺らが付いてるから、な?」
大翔は焦りながら言った。これは自分の安全を確保するためだろうか。けれど、今の莉夢にそんな事を考える時間はなかった。
「は?大翔ばっかじゃないの!4組だよ?聞いてた?」
美雨は苛々していた。噂が確信に変わった。美雨は好きなんだろう、大翔が。大翔はとことん鈍感だから気づいていないだろう。
「え…美雨、どうしたんだよ…?」
大翔は驚きと恐怖を隠せずにいた。
「まぁまぁ、落ち着こうぜ、な?」
穴井 悠哉―悠哉が言う。その言葉に続けて美里、翼も言う。
「美雨ちゃん、そう言いたくなるのはわかるけど言い過ぎだよ」
「美雨、どうしたの?大丈夫??」
少し強めに言う美里とは違い翼は優しく言った。
「…ごめん。」
美雨は渋々謝った。それを聞くと翼が莉夢に言った。
「美雨も謝ってるし、許してあげて?」
この台詞は許してあげてじゃなく、許すよねだろう。
「うん」
莉夢は消え入りそうな声で返事をした。
教室はまた、静まり返った。
「おっはぁ~!みんなのアイドル、りなりなこと橋本里奈です!」
相変わらず、空気の読めない橋本 里菜が教室に飛び込んできた。
それに1人が笑った。翼だ。続けて2人笑った。そしてまた5人。そして10人。そしていつしか僕と美琴と莉夢以外全員が笑いに包まれていた。取り残された僕達は違う世界にいるみたいだった。
「りなりなね、昨日ルドイアの仕事してきたと〜」
りなりなこと橋本里奈―里奈はアイドルらしい。ルドイアというのはアイドルを反対から読むとカッコ良かったからルドイアと読んでいるらしい。ちょくちょく方言が変わるのには前々から苛ついていた。
「へ〜!いいなぁー福岡か〜」
翼は何事も無かったように返事をした。
「え!何でわかると?」
里奈はわざとらしく方言を使って返す。
「だって方言が博多になっとーやん」
翼は慣れない方言を使ってみせた。
「あれ?そうなんと?」
2人とも方言がうまく使えていなかった。
その事に対して笑ったのか何に対して笑ったのかわからないが教室はまた僕達を放り出してみんなを笑いに包んだ。
ガラガラッ
教室の前のドアが開いた。先生だ。この先生は初めて見る先生だった。少し怖そうなでもどこか優しそうな。そんな顔だった。第一印象は背の高い男の人だった。
「ホールに集合して」
少し優しさを詰め込んだ声だった。毎年恒例の始業式前の学年集会。
教室前に並ぶとホールに行った。そこには、8人程の先生がいた。きっと、国語担当、算数担当、歴史担当(社会)、理科担当、体育担当、総合担当、相談担当、4組担当の8人だ。どの人がどれ担当かは今からわかる。
何年か前までは始業式で発表していたがある事件をきっかけに学年で、という事になったらしい。
「それでは、発表します!」
明るい声の女の先生が言った。と同時に少しざわついた。
「はいはい、静かにー!」
また明るい声が聞こえた。と同時に今度は静まり返った。
「まずは、国語担当!」
明るい声が言うと、1人の男が返事をした。
「はい!俺、若瀬 雄輔です。」
そういうと若瀬は笑った。八重歯が光ったのが見えた。優しそうで明るそうな先生だ。
「次は、算数担当!」
明るい声に反応してまた違う男が返事をした。
「はーい、長野 陸希です!」
また、同じように笑った。でも、八重歯はなかった。
「次は、歴史担当!」
「あ、私だ!広瀬 美海です!」
「次は、理科担当かな?」
「はいはい!優しい金崎 由紀ですよ!」
「次はー、体育担当!」
「はーい、南 有紗です!」
「次は、総合担当!」
「はーい!真田 龍司でーす!」
さっきの先生だ。
「次はー、えーっと、相談担当は、私!永瀬 美紗希です!何でも相談してね」
担当教科を言い終わると休憩になった。
休憩時間は15分あるため、みんな好き勝手話していた。
早速、あだ名を考えている人もいた。
「国担は、若雄先生!」
「じゃあ、じゃあ、算担はー、陸希先!」
「それなら歴担は、みなちゃん!」
「理担はー、由紀先!」
「体担はねー、ありさっち!」
「総担は、りゅうりゅうでしょw」
「相担はー、みさちゃん!」
所々、悩みの声と笑いの声が聞こえてきたが聞いていないふりをした。きっと、このあだ名に決まるだろう。
「はーい、休憩終わりー!」
明るい声が言った。それに少しは救われた。煩くて息苦しい雰囲気も無くなった。
「みさちゃん、みさちゃん!クラ担はー??」
翼が早速あだ名を使って聞いていた。
「こらこら、先生を付けなさーい!」
みさちゃんこと、永瀬は笑いながら注意をした。
「ではでは、クラス担当の発表〜!」
永瀬が明るくいうといぇーいとどこからか聞こえた。
「じゃあ、1組!」
「はい!理科担当の金崎 由紀です!」
という声が聞こえると、どこからかいつの間にか広がったあだ名が聞こえてきた。
「次は、2組!」
「はーい、算数担当の長瀬 陸希です!」
「次は、3組!」
「はーい、国語担当の若瀬 雄輔です!」
「次は、4組!」
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