キミに恋の残業を命ずる


「すみません。今夜は行けそうにありません」

『そんな返事はいらないよ。早く来て?』

「…わたし、ほんとに今日はそれどころじゃ」

『早く来い。命令』


もう…!腹が立つ。
だれのせいでこうなったと…!

こうなれば、課長にも業者探してもらうんだからね。








ぷんすかしながら部屋に行くと、ご機嫌とりのつもりか課長はカモミールティーを淹れてくれた。


「ところで、今日話し合っていた案はどうなったの?準備が大変って言ってたけど」

「もちろん、準備することになりました、独りで」

「独りで?」


これには課長もおどろいたみたい。一瞬眉間にしわが寄った。


「大丈夫なの?全社員分のを用意するんだろ?」

「はい、大丈夫です。いつもの残業より、ずっと簡単ですから」

「?」

「『材料×全社員分×種類』。使うのは単純な掛け算だけ。難しい計算式なんて不要ですから」

「ははは。そうだね。その通りだ」


愉快そうに口端を歪めると、課長はいつものようにレモンティーを飲んだ。
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