キミに恋の残業を命ずる
ぐいと引き寄せられた。
近づいてくる日本人離れの顔。
わぁあぁやっぱり顔だけはすっごくいい…!


「まだ帰らないの?こんな金曜の夜に残ってるなんて、キミだけだよ?」

「ど…どうしても今日中に終わらせなきゃいけない仕事ですので…っ」

「今日中?あと数時間したら終わっちゃうけど?」


ふふ、と漏れた笑いも、やっぱり昨日聞いたのと同じ涼しげな声だった。


「仕方がないなぁ、俺がまた助けてあげようか?」

「け、けっこうです…!二日連続でご迷惑かけるわけには…!それにそちらだって残業されてたんでしょう?」

「ダメ社員のくせに気を遣うな。こんな遅くまで働かれちゃ、俺が困るんだから」


困る?
どういうこと?

この人、見た感じわたしより一、二歳上みたいだけど、どこかの部署の管理職なのかな。

社員の長時間残業を見過ごしたのを上に知られるのが不味いんだろうか。自分だって残業しているのに、ご苦労なことだ。


「総務部だろ。ほらさっさと行こうか」

「あっ、ちょっと、待ってください…っ」


なんて考えているうちに、スタスタと歩き始めた背中をわたしは慌てて追いかけるしかなかった。










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