キミに恋の残業を命ずる
はっきりとした、声が聞こえた。


「亜海、今すぐここを開けて。抱きしめたい。キスしたい」

「……」

「俺は亜依子のことはなんとも思っていない。好きなのはただひとり、キミだけだ」


亜海。


言い聞かせるように、強く呼ばれた。


「愛してる」


…!


「俺は親父のようにはならない。俺は、愛した女は最期まで愛し抜く。…だから、頼むよ亜海…俺を独りにしないでくれ…。
気づいたんだ。キミに出会って、キミが来てくれるよろこびを知って、気づいてしまったんだ。
俺はずっと寂しかったんだ、って…」

「……」

「俺はキミがいなければだめなんだ。どうしようもないくらいキミが必要なんだよ…。
愛してる…。
あの部屋は、独りで居るには広すぎるよ…亜海」


気づけば、わたしは玄関に腰を落としていた。
涙もいつの間にか止まっていた。
身体中の全ての機能が止まったような気がした。

甘い甘い苦しさに、胸がきつく締めつけられていて。



「明日、発表がある。俺と亜依子についてのことだ。亜依子の都合もあるから、どういう内容かはまだ言えないけれど…明日になれば、全てが判るから。俺の…キミへの永遠の愛も…」



足音が遠のいていく。はっきりとした、足取りで。





しばらくして、わたしはすっかり日が落ちて暗くなった部屋へ戻った。

部屋はいつの間にか冷え込んでいた。
かじかんだ指でベッドの隅に投げ捨てていたスマホの電源を入れた。

メールと着信件数が何行も連なっていた。


カーテンを閉めていない窓を見ると、夜空に舞った雪が暗い夜空を白く染めていた。










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