自殺という名の地獄
捨てた未来
 俺は今、ビルの屋上から飛び降りた。飛び降りるまでは正直怖かったけど、飛び降りてしまえばなんだか清々しい気分だ。これでこんなクソみたいな人生や、クソみたいな世の中からオサラバできる。もう仕事のことで悩むことも、周りから馬鹿にされることも、笑われることもない。俺は今、解放されたんだ。
ニュースで報道なんかもされるのだろうか。"昨夜未明、無職 森山 蓮司(32)がビルの屋上から飛び降り、死亡しました。警察は自殺を図ったとみて、詳しい状況を調べています"とかなんとか報道されてしまうのだろうか。最後の最後まで世間の笑い者ってわけだ。実に俺らしい最後じゃないか。
 衝撃と共に、全身に強い痛みが走った。その後、瞼まぶたが徐々に重くなり、意識が遠ざかっていくのが分かった。
―これでやっと死ねるんだ
そう思った。
これまでの俺の人生が瞼の裏に、まるで映画のように映し出される。これが走馬灯というやつか。
母ちゃんが産まれたばかりの俺を抱きながら笑っている。父ちゃんも俺を見つめながら笑っている。実に幸せそうだ。2人のこんな幸せそうな姿は初めてみた。少し、悲しい気持ちになった。
父ちゃん、母ちゃん、こんな出来損ないの息子でゴメンな。
 走馬灯が終わると、自分の身体から少しずつ離れていくのが分かった。自分で自分を見下ろすというのは、実に不思議な感覚だ。
俺の身体の周りはすでに野次馬でいっぱいになっていた。SNSに投稿するのだろうか、写真まで撮っている奴までいる。
身体と切り離された俺は、飛び降りたビルの屋上まで浮かび上がっていった。野次馬が徐々に小さくなっていく。ふと、背後に気配がした。振り向くと、そこには黒いスーツ姿の中年男性が1人立っていた。男は少し不機嫌そうな表情を浮かべている。
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