恋は盲目というけれど【完】
講義が終わり、隣に座っていた葵が立ち上がった。

「あ、おい」

私は葵がどこかへ行ってしまうような気がして、思わず葵の服の袖を掴んだ。

「華月」

葵は私の名前を呼ぶと、優しく頭を撫でた。

「俺はどこにも行かないから」

葵は昔からそうだ。頭を撫でながら、私が欲しい言葉をくれる。顔が分からなくても、声が分からなくても葵が葵だと分かるところはあるんだ。

「華月、中庭に行こう。話したいことがあるんだ」

「うん、分かった」

話したいことってなんだろう。ここじゃだめなのかな。と、いろいろ考えながら私は葵に連れられ中庭に向かった。



「華月は"恋の病"って知ってる?」

木陰のベンチに座り、青い空を見上げながら葵はそう聞いてきた。

「"恋の病"? 好きすぎて何も手につかなくなるとかそんな感じのこと?」

「そう。たいていの場合はその程度で済むんだけれど、たまにもっとひどい症状がでることがあるんだって」

「ふーん。例えば?」

「好きな人の顔が見えなくなるとか」
「え?」
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