私のエース
 目の前で横たわるみずほは靴を履いていた。


(一体何があった!? 遺書も無いなんて……)
俺はやっとさっきの岩城静江の言葉を理解した。


(その上、靴も履いたままで……えっ!!
靴を履いたまま!? やっぱり!!)

俺は静止を無視してみずほに取りすがった。


「違う! 自殺なんかじゃない!」
俺の言葉が虚しく響く。


「みんな良く見てくれよ! 靴を履いたままで自殺なんか有り得ないだろう!?」

俺はみずほ傍に崩れ落ちた。


俺はその時、何かの気配を感じて屋上を見上げた。
屋上の柵に手を掛けて、クラスメートがみずほを見ていた。


(彼処から墜ちたのか?)

そのとてつもない高さ……
俺はみずほのあじわった恐怖を肌で感じて、総毛立った。


でもその時俺は違和感をクラスメートに感じた。
其処に居た数名の口角が上がっていたのだ。




 (自殺の原因は? そうだ、ちゃんと調べて遣らないとみずほが浮かばれない)

マジでそう思った。
探偵として……イヤ、恋人として。
原因を追求しなければいけないと思ったんだ。


俺がサッカーの交流戦のために学校に居ないことを知りながら……
それでも俺を頼ったみずほ。『助けてー!!』と叫んだ声が……耳の奥に残ってる。


俺は何も出来なかった!
恋人を守りたかったのに!




 その時。
体が反応した。
そっと後ろを見ると、ぼんやりとした白い影の女性が見える。
その人は草むらを指差していた。


俺は霊感体質だった。
だから其処に何かがあることは解っていた。
だから、必死になって其処を探した。


(みずほ。此処に一体何がある? 解っているよ、あの影は君なんだろ?)

俺はみずほの遺体を見つめながら、手は導かれる方向へ指し伸ばしていた。


そして……
やっと見つけた。
みずほの大事にしていた化粧用コンパクトが俺を呼んでいた。




 それは俺からの誕生日プレゼントだった。
叔父さんの仕事を手伝ったお礼と言うか、初給料で買った物だった。


『瑞穂のためにうーんと可愛い女性になるね』みずほはそう言ってくれた。
でもみずほはそれで化粧をする訳でもなく、鏡の代わりに使用してくれていた。
そして……鏡に写る俺に向かってウインクをした。
俺だけに解る鏡越し……俺達は本当にラブラブだった。




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