私のエース
 『出ようか?』
磐城君が言った。
でも私は動けなかった。
腰だけではなく、全身に力が入らないのだ。


私は放心状態だった。
磐城君はそっと私の横に移動して、体を支えて立ち上がろうとした。




 『ねえどうして最初にいわきみずほを選んだの?』
その時。
千穂は私達が一番聞きたいことを質問した。


磐城君はその答を知りたいらしくて、一旦上げた腰を又戻した。


『うーん、それはね』
百合子は暫く考えてから話出した。


『翔太のためかな?』


(翔太!? 磐城君が行くはずだった交流戦で大活躍をしてレギュラーを取ったと言う、隣のクラスの橋本翔太さんなの!?)


『翔太をレギュラーにしたくてね』



(やっぱり……)
その答えに私は意気消沈した。
磐城君があまりにも可哀想だったからだ。
でもその種を撒いたのは間違いなく私なのだ。
父親を殺すだけだった計画がとんでもない方向に向かおうとしていた。


『そっかー。磐城君を呼び戻すためにメールを打ったのか? 頭良いね』


『でしょ? 全く有美の親父さん良いタイミングで死んでくれたから』


『橋本君に何か言われたの?』


『ううん、別に……ただ磐城君がグランドに来なければ、とかね』


『だからキューピット様で《いわきみずほ》って書いたのか?』


『そうよ。男でも女でも良かったのよ』


『でも磐城君か死んだらイヤだから……』


『だからどっちかって聞いたのか?』


『女のみずほはともかく、磐城君は絶対に死なせたくないもの』


『でも一瞬躊躇ったわ。だってもしかしたら翔太が疑われたかも知れないのに……私ったらダメね』


『本当ね。でも良かった、誰も気付いていないみたいだからね』
千穂は笑っていた。
顔は見えないけど、声がウキウキしているように感じた。




 磐城君を陥れるためにキューピット様をやろうと持ち出した百合子。
それに乗ってみずほを死に追いやったクラスメート。


でもまだそれでは終わらない。
私の全身を恐怖がまとわりついていた。


私は泣いた。
卑怯者だと自分で自分を責めながら……




 私は恐怖に震えながらやっとカフェを後にした。
でも本当は……磐城君もやっと歩ける程度だったみたい。


それでも磐城君は私を自宅前まで送ってくれた。


岩城みずほの恋人は彼女が自慢していた以上に優しい人だった。

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