私のエース
 「叔父さん。その時の容疑者が怪しいと思っているんでしょう?」


「当たり前だ。アイツ以外考えられねぇ。でもよぅ、俺はアイツが好きなんだよ」
叔父さんは声を絞り出すように言った。


アイツとは、ある殺人事件の共犯者とされた人物だった。

叔父さんが補導した元暴走族だった。

仕事の世話。
結婚の見届け人。
若い叔父さんは出来る限りの力を尽くした。

だから……
共犯者として名前が出た時も、意義を申し立てた。


犯行時間直後。
現場近くの道で、携帯電話を掛けている人が目撃された。

丁度その頃。
叔父さんに電話があった。

そのアイツから……


叔父さんはアリバイを主張した。

でも認められず、アイツは服役したんだそうだ。


「アイツは、どうやら騙されていたようだ。自白に追い込むための汚ない手を使われてな」


「そんな。それで恨まれたんだ。叔父さん悔しいね。でも、逮捕するためなら何をやってもいいってことないよね?」

俺の質問に叔父さんは頷いた。




 警察は誘導尋問や、拷問を繰り返す。


そして……
叔父さんがアリバイを覆したと教えた。

勿論嘘だった……


叔父さんはずっと言っていたのだ。


「犯行時間されている時刻に、間違いなく電話を受けていると」


丁度、携帯電話も普及してきた頃だった。

きっとそれから掛けてきたのではないのかと同僚は思い込んでいたのだ。

でも、アイツにはそんな余裕はなかった。


まだ式を挙げていなかったため、ずっと節約していたからだった。


奥さんに内緒のプレゼントとするために。

それは結婚指輪と、教会での結婚式だった。




 「ラジオって言葉知ってるか?」
叔父さんが聞く。


「ラジカセのラジオ?」
俺もまた、普通に答える。


「違うよ。業界用語で無銭飲食のことだ」


「俺まだ探偵用語なんて習ってねえよ」

俺はてっきり、そっちだと思った。
でも良く考えてみたら、無銭飲食を見張る事も無いなと思った。


「それって、もしかしたら警察用語?」

俺の質問に叔父さんは頷いた。


「ラジオの詳しい言い伝えは解らない。無銭と無線をかけたのじゃないかな?」


「でも叔父さん、無線だったらトランシーバーじゃないの?」

俺はつまらない屁理屈だと思いながら、言っていた。




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