私のエース
 気が付くと俺は自分の部屋にいた。
此処まで帰って来た記憶が無い。

俺はベッドの上で泣いていた。


みずほのように有美も殺されるかも知れない。

その事実が怖くて仕方なかった。

それも俺とみずほにとって幼なじみの、福田千穂がみずほの死を願ったのだ。


みずほが死ねば、俺がなびくとでも思ったのか?

言い訳じゃない。
俺は本当に知らなかったんだ。
千穂が俺に恋心を抱いていたなんて。


千穂の痛みは解る。

でもあの時千穂ははっきり言った。

松尾有美なら死んでも誰も悲しまない。
サッカー部のエースの彼女だから、みんな大喜びするはずだと。




 俺はそんな、人を呪い殺しても平気な顔をしている千穂に愛されていたんだ。


(怖い! 怖過ぎる!)

千穂が殺人鬼だなんて思いたくはない。

でも……
みずほを殺すことを画策しておきながら、平然としているのも事実だ。


(もし俺が千穂を愛さなかったら、きっと何時かは俺が殺される! 俺を振り向かせる為に又何かをやらかす。だって、そのためにみずほは殺されたんだ。俺が居たから……みずほを好きになったから……だからみずほは死んだんだ!!!!)




 クローゼットを開ける。
気が付くと俺はクッションに顔をこすりつけ泣いていた。


嗚咽を漏らしたくなかった。

みずほが悲しむことが解っていたから……


俺は叔父さんと同じ方法をとっていた。


又命が失われるかも知れない。


幼なじみが犯人かも知れない。


知れば知る程地獄に近付く。


「う、ううー」
それはとうとう始まった。


俺はクッションをキツく口に充てた。


「わあぁぁぁ――」
口から激しい泣き声が湧いて出る。

それを止めることなど、はもう俺にも出来なくなっていた。




 それでも気丈に立ち上がる。

例え人殺しだったとしても、有美を守ってやりたかった。

そして何より、千穂に殺人を犯させないために……


(たとえ親を殺したのが有美だとしても……守ってやれるのは俺だけなんだ!)

そう肝に命じた。




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