Versprechung
あの夢の話をした後、アドラーは何だか神経質になった。
私に今後箱庭に出ないように命じ、窓をカーテンで覆い隠す。
そして常に目の届く場所にいるように言いつけてきた。
彼の変わりように少し不安を覚えながらも、私はうなずいた。
彼がこのようになったのは、私が話した夢の話がきっかけだ。
彼まで巻き込んでしまった以上、こちらも彼の言葉を聞くべきである。
そう考えたのだ。

アドラーは私を教会の中に留めた後、一日半はおろか私が起きてから寝る間まで、女神像に向き合うようになった。
何が何だかわからないが、何かをひたすら祈り続けている。
彼の行動は増して奇妙だった。


数週間経った。彼は相変わらず日中祈り続けている。
私は机に座り、ぼおっとしている毎日を送っていた。
一度彼と並ぼうとしたが、信じてもいない神様に向かって祈り続けることにはかなりの抵抗があって、できなかった。
箱庭を閉ざされた以上、暇を潰すものはない。
飽きないと思っていた砂時計の文字も、もう見飽きてしまった。
そろそろ限界だと感じた。
毎日同じことの繰り返し。
不安に苦しむ日々と同様に、それが辛いことのように思えたのだ。

「アドラー」

祈る彼の背に、声をかけた。
アドラーは、一拍おいてこちらの方を向く。

「何だ?」

「少し話そうよ。何もすることがなくてつまらないわ。」

「あぁ……」

彼はやつれている様子で、祈る状態から立ち直るのに数十秒時間をかけた。
おぼつかない足取りで私の元に歩み寄る。

「大丈夫?疲れてるんじゃない?」

様子をみる限り疲れているに決まっているが、最初の言葉はそれしか思い付かなかった。

「疲れてない、大丈夫。」

復唱するように答えて、アドラーは私の隣に座る。
座ってもなお、彼は女神像に視線を向けていた。

「ねぇ、最近どうしちゃったの?ずっと彼女の方を向いてばっかりじゃない。」

気になってしょうがないことを聞くと、アドラーはあぁ…と溜め息に近い音を出す。

「何でもないんだ。お前が気にすることじゃない。」

素っ気ない口調に内心むっとする。

「何でもないことじゃないでしょ。ほら、こっちを向いて。」

その言葉でようやく、アドラーは女神から視線を外してこちらを見た。
目の下に、深いくまができている。
それを指でなぞりながら、眠らなかったの、と問う。
彼は首を振った。

「眠れなかったんだ。」

「どうして?」

「いなくなってしまうような気がしたから。」

と、そこでぎゅっと結び、小さな声で「お前が」と付け加える。
とても不安そうな顔だった。
泣きそう、と言ってもよかったのかもしれない。

「私がいられるのは教会の中だけよ。
箱庭に出ない約束も破るつもりはないわ。
私はここにいるでしよ。」

「あぁ、そうだな……」

そういってアドラーは両手の掌の中に顔を埋めた。

「よかった、リラ…」

とうとう泣き出したかと思った。でもすすり泣く音はない。
不安を少なくするために、視界を覆ったのだろう。

「箱庭は危険だ、リラ。
本当に外には出ないでくれ。俺を独りにしないでくれ。」

「ええ、分かってるわ。」

やさしく微笑みかけた。
だが、彼が顔をあげることはない。
一度心の整理が必要なのだろう。

「私はあなたを独りになんかしない。」

怯える彼に囁きかける。

「ここにいるわ。」
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