君の声がきこえない
前篇・失聴
 いつもの朝がやってきた。憂鬱ゆううつな朝が。
時計の針は午前六時をさしている。
「まだもう少し寝れるな」
三浦 海斗は再び、夢の世界へと誘われた――。
 午前七時半。目覚まし時計のけたたましい音が海斗を夢の世界から現実世界へと引き戻す。
ため息にも似た欠伸あくびを漏らしながら気ダルそうに起きると、やっと最近着慣れてきた制服に着替える。海斗にはそれが白装束に見えた。
まだ使い慣れていない鞄を手に、重い足取りで一階にあるリビングへと向う。階段を下りながら、海斗は学校を休む口実ばかりを考えていた。今日も良いアイデアは思い浮かびそうにない。足は海斗の意志とは反し、一歩、また一歩と歩を進める。
 リビングに入ると何度も見たことのあるレパートリーの少ない朝食と、忙せわしなく動く母の紀子が海斗を出迎える。父の昌彦はもう既すでに仕事へ行った後のようだ。
「おはよう。昨夜はよく眠れた?」
「まぁね」
顔も見ずに答えると、朝食を半ば義務的に食べ始める。味なんて分からない。
「早く食べないと遅刻するわよ」
今度は答えなかった。無視だ。黙々と朝食を食べ進める。
「ごちそうさま。行ってきます」
「いってらっしゃい。気を付けるのよ」
朝食を食べ終えると、その足で行きたくもない学校へと向かう。足取りは変わらず、重い。心なしか玄関の扉も重く感じる。扉を開けると、外界の光が海斗を包み込む。長い一日が幕を上げた。
「行きたくないなぁ」
思わず心の声が少し漏れる。眩まぶし過ぎる太陽と、青過ぎる空を仰ぐ。初夏の陽射しが容赦なく降り注ぐ。
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