メロウ
たゆたう















部屋の中にいるというのに、自分の吐き出した息が白くて、そういえば暖房をつけていないことに気がついた。


ゆっくりと顔をあげて、時計を見る。

帰宅してから、たぶん二時間以上。


照明さえつけていない部屋は薄暗く、座り込んだフローリングの床は金属のように冷たい。


カーテンの隙間から射し込む街灯の明かりに照らされて、私の吐息は白く凍った。



一人の部屋にいると、いつもは耳にも入らない微かな音が、こんなにも大きく聞こえてしまうのは、どうしてなんだろう。



彼の好きなワインが入った冷蔵庫のうなる音。

彼の帰宅の遅れを知らしめるように時計の針が時を刻む音。

―――聞きたくない音ばかりが聞こえる。



彼が廊下を歩いて部屋に向かってくる足音。

彼が玄関の鍵を開ける音。

―――聞きたい音は、いつまで経っても聞こえてこない。



私はまたひとつ、深く息をついた。


頬のあたりで凍る吐息。


この部屋には、私のため息が充満している。



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