この手を離さない
「光輝が……」



「奈美!奈美聞いてる?お母さん今光輝ママと一緒にいるの。これから、光輝君が搬送された市立病院に行くからあんたも急いで向かって!病院の受付で光輝君の名前言えば場所教えてもらえるから」



お母さんの声が、遙か遠くから聞こえるような気がする。



現実感がまるでない。



その反面、夢じゃないということもなぜかはっきりと感じている。



足が震えて、立っているのがやっとだ。



病院に行かなきゃ。



自分の目でちゃんと確認しなきゃ。



事故なんか何かの間違いで、



「よぅ奈美!おまえ何慌ててんだよ」



って笑ってくれるかもしれないんだし。



そうだよ!



そうに違いない!



だからこそすぐに病院に行かなきゃ!






しかし頭では分かっているのに、体が動かない。



何をすべきか、全く分からなかった。




いつまでも動けないまま壁にもたれかかっていると、



「泉田さん?」



突然背後から誰かに名前を呼ばれた。


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