俺のことを好きにさせてやる

うずくまった私に降り注ぐ声。

ゆっくりと顔をあげると、
そこには目元がキリッとした男の人が立っていた。

「だれ…ですか、」
「人に聞く前に、お前が名乗れよ」

助けてやる、と言った彼は
てっきり優しいものだと思えば、キツい口調でそう返した。

「……りの、藍沢梨乃」

少しふてくされたようにそう言うと、
彼は口角をあげながらゆっくりと手を伸ばした。

「俺は、成瀬翔」

伸びてきた手の平が、そっと私の頬に触れた。
思わず目を見開いた私は、
そのまま彼を見つめた。

「しょ…う……」
「俺には、お前の心がわかるよ」

角度を変えた彼の顔が、
ゆっくりと近づいてくる。

ちゅ…、と唇に軽く触れると
彼はすぐに顔を離した。

「梨乃、俺のことを好きにさせてやる」

息が止まるほどの緊張が、
私のカラダを駆け巡った。

< 3 / 5 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop